2020年7月8日水曜日

広河氏の言いたい放題を許した『DAYS JAPAN』最終号の責任(『週刊金曜日』2019年4月12号掲載)

前投稿につづき『週刊金曜日』2019年4月12日号(1228号)掲載の特集「広河隆一氏による性暴力・パワハラと『DAYS JAPAN』最終号を考える」からの転載です。

この特集は以下の3本立てになっていました。

  1. 扱われなかったパワハラと劣悪な労働環境の問題 渡部睦美
  2. 加害の事実認定なしのまま、なぜ「報告」できるのか 角田由紀子
  3. 広河氏の言いたい放題を許した最終号の責任 乗松聡子

このうち週刊金曜日から転載許可が出たのが、2と3の記事でした。本ブログの前投稿では2.の角田由紀子弁護士のインタビュー記事を転載しました。今回は、3.の乗松聡子の記事を転載します。

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『週刊金曜日』2019年4月12日号より



広河氏の言いたい放題を許した最終号の責任


乗松聡子



- 掲載された広河隆一氏の主張は、性暴力加害者に有利な日本の刑法規定にのっとってなされているかのようだ。それにお墨付きを与える格好の『DAYS JAPAN』最終号の責任は重い。

 昨年12月30日、『琉球新報』に「広河隆一氏の性暴力 女性差別抜け落ちた『人権』」という記事を書いた。記事の中で、「合意のない性行為(=レイプ)」、「(広河氏は)合意なしの性関係を行った」と書いたことから、ある男性ジャーナリストに、「(広河氏が)レイプして犯罪をおかしたと言っていると受け取られる」と問題視された。
 その後その記事の英語版を発表したが、翻訳中に、原稿を読んだ米国のある女性学者から、「『合意なしの性関係を持った』ってレイプのことだろう。どうしてそのまま『レイプ』と言わないのか」と尋ねられた。同じ内容でも、日本と北米で前者は「言い過ぎだ」、後者は「言い足りない」と、正反対とも言える反応が返ってきたことは象徴的だった。
 新年、地元のカナダ・バンクーバーの大学を訪ねたとき、受付横に貼られていた「合意とは」というポスターに目を引かれた。「合意とは何か?言葉で示さなければいけない(拒否の不在ではない)。明確でなければいけない(思い込みではない)。意識のあるときに示したものでなければいけない(意識のないときには与えられない)。自由な状況で与えられなければいけない(脅迫や強制では違う)。連続的でなければいけない(いつでも撤回できる)」と。
 カナダの刑法における「性的暴行」の条項には、「合意とはみなされない」項目の一つとして、「被疑者が、信頼される立場や、権力や権威を乱用して、被害を訴えた人を誘導して行為に及んだ場合」と明記されている。『週刊文春』『毎日新聞』『共同通信』などで報道された広河氏についての被害者の告発は、まさしくこれに当てはまる。
 もちろんカナダもまだポスターで啓蒙しなければいけないような社会なのだろう。しかし日本の場合、今年3月26日に、参院予算委員会で日本における性暴力について質問した辰巳孝太郎参議院議員が「(強制性交等罪を問う際の)最大の問題は被害者の合意・不合意を、暴行・脅迫の有無に限定してしまっている今の刑法にある」と述べたように、加害者を利する刑法が変更されないでいるのだ。
 広河氏はまさしく、この日本の法の遅れを利用しているかの如く、「暴行の不在」と「合意」を主張し続けている。

「加害者に語らせる」

 そうした中、2月8日発売の月刊誌『世界』3月号は、広河氏の性暴力をテーマにし、フェミニスト作家の北原みのり氏と「職場のハラスメント研究所」代表の金子雅臣氏の対談を掲載した。だが対談は、ほとんどが一般論に終わった。
 対談記録の第一声は、北原氏の「よくある事件がまた起きた」という言葉だった。しかし、この事件は、その性暴力、パワーハラスメントの質と数においても、広河氏が日本のリベラル派のジャーナリズムを代表する人間の一人であったということにおいても、業界全体を震撼させるような大事件であり、「またか」で済む話ではない。
 とりわけ、金子氏が、「(加害側の)男性に語らせないといけない」と、「加害者に語らせる」ことを重視していたのは大きな疑問だ。「日本の場合、とにかく加害者に語らせないですよね。それどころか、告発者探しをして、被害者にマイクを突き付けてしまう」と述べた。日本がいつ被害者ばかりに語らせる国になったのか。広河氏の事件も告発者がいたからこそ明るみになったが、告発者は氷山の一角だろう。
 金子氏は、遡る2018年8月号の『世界』記事「セクハラという『男性問題』」で、男性が告発に応じるべきだという文脈で、「伊藤詩織さんのケースを見ても、相手の山口敬之氏は逃げ回り、正面切って対峙しようとしない。本当に自分は潔白であるというのなら、告発に対峙し主張すべきです。裁判を起こせば良いのに、それもやらない」と述べている。実際、山口氏は3月6日、SNS上で、伊藤氏に対し名誉棄損訴訟を起こしたと報告している。金子氏は、この山口氏の行動に賛同するのか。

繰り返される二次加害

 そして、その後起こったことは、『世界』対談が敷いた路線、つまり加害者に語らせ、個別の責任追及を避けるかのごとくの「構造問題」に飛ばす路線を辿ることになる。実際、この金子氏自身が「検証委員会」の委員長に就任したのだから、当然の帰結だったともいえる。
 3月7日発売の月刊誌『創』4月号で広河氏は8ページにわたる手記を発表し、加害者が語りたい放題の場となった。広河氏は「全てを失うことになった」と、自己を被害者化しながら、「セクハラ、性暴力、パワハラについて書かれた様々な本を読み始めた」と勉強していることをアピールした。しかし、本当は違うとでも言いたげなカッコ付の「性暴力」の表記を徹底し、執拗に性暴力の否定と「合意」があったとの主張、事実関係の未確認という、セカンドレイプ(二次加害)のパターンを繰り返した。
 そして3月20日、予定より一か月遅れで出た『DAYS JAPAN 』最終号。「『広河隆一性暴力報道を受けて』 検証委員会報告」と呼ぶ「第一部」は、被害者側の聴取は一切なしで、『創』のセカンドレイプを繰り返す増幅版のような内容となっている。
 Q1からQ8までの、広河氏の弁明の後、「考察」と称した検証委による批判が延々と展開されるが、氏に返答を求めたり追及したりした様子もない。さらに、「考察」には、被害者の気持ちを「想像に難くない」「容易に推測できる」といった表現で代弁を試みる箇所が多数ある。『週刊文春』の2回にわたる記事で告発した8人の被害者のうち、検証委から連絡を受けていたのは2人だけだったという(3月14日発売同誌)。検証委は被害者に連絡する十分な努力も行わずして、被害者の勝手な代弁をしていたことになる。
 「検証委員会」として任命されたグループは、この事件の理解に対して公的責任を負う。その委員会が、『創』のセカンドレイプに事実上のお墨付きを与えたようなものを最終号に出した責任は重大だ。

結果として責任逃れに加担

そして「責任編集」者、林美子氏ともう一人の外部編集者、岩崎眞美子氏による「第二部」は、「#MeToo特集」という位置づけのようだが、「#MeToo」とは本来、被害者が具体的な事件を告発して加害者を特定し、責任追及する連鎖のことを指していたのではなかったのか。広河氏の被害者たちが行ったこともまさしくそれであった。それなのに、広河氏の事件の検証にもなっていない検証委の記事とセットで、構造議論中心の識者談話集と、広河氏ではない他の事件の被害者の声を集め、最後は取ってつけたような『世界の#MeToo』写真でページを埋めた。これは全体的に個別責任を拡散し、広河氏や株式会社デイズジャパンの責任逃れに加担した結果となったのではないか。
 林氏は、第二部の記事「広河氏の性暴力をどう考えるか」の冒頭では、過去に広河氏を取材した経験を語りながら氏の仕事を肯定しているように見える。そもそもこれだけ広河氏と交流のあった人が、検証の目的を持つ最終号の「責任編集」を担当できるのか。林氏は「2月に広河氏と3回会い、事件についてやり取りした」とも述べているが、やり取りの内容も報告しておらず、疑問が残る。
 さらに、岩崎氏の担当で、数々の性暴力やセクハラ事件の被害証言を匿名で集めた「声なき声の当事者たち」についてだが、肝心の広河氏の被害者が不在の最終号の中で、この特集はその不在を埋め合わせるかのように見える。内容は深刻なものばかりだ。岩崎氏自身も、解説文で、フラッシュバックを経験した人、このようなアンケート調査の「暴力性」を指摘した人に触れている。証言者にここまでの心理的負担を負わせてまで、必要な特集だったのだろうか。
「検証」は今後どうなるのか。今、被害者たちには検証委員会からの聞き取り依頼が来ているようだ。広河氏の被害者たちの「声なき声」こそ隠さず拾い集めた上で「検証」を行い、加害者の責任追及をすることが、真の「#MeToo」と言えるのではないか。


のりまつ・さとこ ピース・フィロソフィー・センター代表(カナダ)。『沖縄は孤立していない』(金曜日、2018年)編著。『琉球新報』にコラム「乗松聡子の眼」を連載。HP:peacephilosophy.com


『週刊金曜日』2019年4月12日(1228号)pp.44‐45より、編集部の許可を得て転載



[写真説明:上/エミリー・カー美術デザイン大学の校内に張られた「コンセント(合意)とは」何かというポスター(右)。下/共産党の辰巳孝太郎氏。国連の立法ハンドブックが、〈加害者側に合意の証明を要求するべき〉としていることに言及し、「暴行・脅迫用件の撤廃」を訴えた。]

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